法人口座の申込フォームを進めていくと、代表者の情報とは別に「実質的支配者」を入力する欄が出てきます。銀行と法人の形態によっては、その全員分の本人確認まで求められます。

あわせて目にするのが、法務省の「実質的支配者リスト制度」です。法務局に申し出ると、登記官の認証文が付いたリストの写しを受け取れる制度で、写しを銀行等に提出する使い方が示されています。ただし、制度を使えるのは株式会社だけで、対象になる人の範囲も議決権で決まる人に限られます。

本記事は、法務省の制度ページとQ&A、銀行2行の公式ページで本文を確認できた記載だけを使い、法人口座の申込で実質的支配者の欄をどう埋めればよいかを整理します。読者の会社で誰が実質的支配者に当たるかの判定は、当サイトでは行いません。審査の結果は各銀行の判断であり、当サイトは口座開設の可否を保証しません。

実質的支配者とは、法人を実質的に支配する自然人のこと

実質的支配者は、議決権の保有などを通じて法人を実質的に支配している個人を指す語です。法務省は制度ページで次のように定義しています。

実質的支配者(BO:Beneficial Owner)とは、法人の議決権の総数の4分の1を超える議決権を直接又は間接に有していると認められる自然人等をいいます

出典: 法務省「実質的支配者リスト制度の創設」(当サイト確認日 2026年10月3日)

同じページは、この定義の根拠として犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下、犯収法)とその施行規則を挙げています。銀行が申込時に実質的支配者を確認するのも、この法律に基づく義務です。ドコモSMTBネット銀行のFAQは「「犯罪による収益の移転防止に関する法律」により、お客さまに確認することが義務付けられており、法人の業態により、どなたが実質的支配者となるかが異なります。」と説明しています(ドコモSMTBネット銀行 FAQ(公式)/ページ記載の作成日 2021年6月3日/当サイト確認日 2026年10月3日)。

ここで押さえておきたいのは、実質的支配者は原則として個人だという点です。同じFAQは「実質的支配者は個人のかたとなりますが、国、地方公共団体、上場企業とその子会社は個人とみなします。」と書いています。法務省の制度ページも、自然人とみなされるものとして国、地方公共団体、人格のない社団又は財団、上場会社等及びその子会社を挙げています。親会社などを通じた間接保有の扱いは、後の節で引く法務省Q&A 1-2 の要件(自然人が中間の会社の議決権の50%超を持つこと)で確かめます。

実質的支配者の確認方法は、法人の形態で変わる

銀行が実質的支配者を確認する方法は、申し込む法人の形態によって異なります。三井住友銀行の法人口座 Trunk は、実質的支配者の説明ページで「お客さまの法人の形態によって、実質的支配者の確認方法が異なります。」と書き、形態ごとの判定の入口を設けています(三井住友銀行 Trunk「実質的支配者について」(公式)/当サイト確認日 2026年10月3日)。

同じページは、実質的支配者を「法人のお客さまの事業活動に支配的な影響力を有すると認められる個人の方が該当します。」と説明しています。個人とみなされるものとしては、国、地方公共団体、独立行政法人、国・地方公共団体が50%以上出資する法人、上場企業、およびこれらの子会社が挙げられています。前の節で見た法務省やドコモSMTBネット銀行の書き方とは、挙げている範囲が少しずつ異なります。申込先の銀行の記載を基準に読むのが確実です。

Trunk の必要書類ページで実質的支配者の書類が個別に書かれているのは、合同会社・NPO法人の項目です。同ページは、「お客さまが合同会社、またはNPO法人の場合」の書類として、実質的支配者の該当者であることを確認できる書類(定款)を挙げ、実質的支配者を次の3つの類型に分けています。

類型Trunk 必要書類ページの記載(合同会社・NPO法人の場合)
類型1「直接または間接に保有する議決権を25%超保有する個人または法人」
類型2「事業活動に支配的な影響力を有する個人(例:大口債権者、会長、創業者)」
類型3「お客さまの法人を代表して業務を執行する個人(例:取締役)」

出典: 三井住友銀行 Trunk「必要書類」(公式)(当サイト確認日 2026年10月3日)

類型1は「個人または法人」と書かれています。一方、法務省、Trunk の「実質的支配者について」、ドコモSMTBネット銀行のFAQの説明では、実質的支配者は個人(個人とみなされるものを含む)とされています。申込書類の類型と制度上の定義は書き方が異なるため、申込先の銀行の記載に沿って記入してください。

定款の提出は類型によって分かれ、類型1・2の場合は「定款のご提出が必要です」、類型3の場合は「定款のご提出は不要です」とされています。同じ項目の中で、Trunk は「実質的支配者全員分の本人確認」を求め、「口座開設申込フォームの中で、実質的支配者の皆さまにスマートフォンを利用した本人確認を実施いただきます。」と記載しています。本人確認にはマイナンバーカードまたは運転免許証が必要とされています。

この3類型と全員分の本人確認は、合同会社・NPO法人の場合の項目に書かれた記載です。株式会社の申込で同じ扱いになるかは、このページからは読み取れません。株式会社の場合は、Trunk の判定の入口から自社の形態を選んで確認してください。

実質的支配者リスト制度は、株式会社が使える法務局の制度

実質的支配者リスト制度は、株式会社が自ら作成したリストを法務局に保管してもらい、認証文付きの写しを受け取る制度です。法務省は制度の概要を次のように説明しています。

本制度は、株式会社(特例有限会社を含む。)からの申出により、商業登記所の登記官が、当該株式会社が作成した実質的支配者リスト(※)について、所定の添付書面により内容を確認した上でこれを保管し、登記官の認証文付きの写しの交付を行うものです。

出典: 法務省「実質的支配者リスト制度の創設」(当サイト確認日 2026年10月3日)

制度の要点を、同じページとQ&Aの記載から表にまとめます。

項目法務省の記載
運用開始令和4年1月31日(ページ表題の記載)
利用できる法人「資本多数決法人である株式会社(特例有限会社を含む。)」。持分会社や一般社団法人、一般財団法人等は対象外
費用「本制度は無料で利用することができ、郵送による申出も可能です。」(法務省)
提出先「申出する会社の本店所在地を管轄する法務局」
リストの作成者会社の代表者(Q&A 1-8-1)
写しの使い道「実質的支配者リストの写しを銀行等の必要機関に提出する。」

合同会社は、この制度を使えません。法務省は、株式会社以外の資本多数決法人を対象外としたうえで、「資本多数決法人以外の法人(持分会社や一般社団法人、一般財団法人等)も対象外です。」と明記しています。合同会社で法人口座を申し込む場合は、前の節で見たように、銀行が求める書類(Trunk の場合は類型1・2に該当すれば定款)で実質的支配者を示すことになります。

申出には、リストの内容を証する書面の添付が必要です。法務省が挙げているのは、株主名簿の写し、公証人が発行する申告受理及び認証証明書(設立後最初の事業年度を経過していない場合に限る)、法人税確定申告書別表二の明細書の写し(申出をする日の属する事業年度の直前事業年度に係るもの)のいずれかです。リストとこれらの書面の内容が合致しない場合の理由書や、代表者の本人確認書面などが別に必要になる場合もあります。必要書類の全体は、法務省のページで確認してください。

制度が対象にするのは、議決権で決まる実質的支配者だけ

実質的支配者リストに記載するのは、議決権の保有割合で決まる人です。法務省は「本制度の対象となる実質的支配者とは、犯収法施行規則第11条第2項第1号の自然人(同条第4項の規定により自然人とみなされるものを含む。)(※)に該当する者をいいます。」としたうえで、具体的には次のいずれかに該当する者だと説明しています。

(1)会社の議決権の総数の50%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明らかな場合を除く。)

(2)(1)に該当する者がいない場合は、会社の議決権の総数の25%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明らかな場合を除く。)

出典: 法務省「実質的支配者リスト制度の創設」(当サイト確認日 2026年10月3日)

最初の節で引いた定義は「4分の1を超える」でしたが、リストの対象は段階で決まります。50%超の人がいればその人が対象になり、いない場合に限って25%超の人が対象になります。25%超の株主が複数いても、50%超の株主がいればリストに載るのはその人だけ、ということです。間接保有については、Q&A 1-2 が、自然人Aが甲株式会社の株主である乙株式会社を介して甲株式会社の議決権を持つ例を挙げたうえで、「間接保有というためには、自然人Aは、乙株式会社の50パーセントを超える議決権を有していることが要件となります」と説明しています。

制度を使えるのは株式会社だけなので、ここまでの整理を法人の形態で分けると次のようになります。これは法務省と Trunk の記載を当サイトが並べたものであり、両者がこの対応関係を示しているわけではありません。

法人の形態実質的支配者リスト制度Trunk の必要書類ページの記載
株式会社(特例有限会社を含む)利用できる。対象は議決権の段階判定で決まる人3類型と定款の項目は、合同会社・NPO法人の場合として書かれている
合同会社利用できない(持分会社は対象外)類型1〜3で示し、類型1・2なら定款を提出。実質的支配者全員分の本人確認
NPO法人利用できない(法務省は資本多数決法人以外を対象外としている)合同会社と同じ項目に記載

実質的支配者リストを口座開設に使えるかは、銀行ごとに確認する

当サイトが確認した範囲では、リストの写しを口座開設の申込で受け付けると明記した銀行の記載は見つかりませんでした。法務省の制度ページは写しを「銀行等の必要機関に提出する」と書いていますが、Trunk の必要書類ページにも、ドコモSMTBネット銀行のFAQにも、「実質的支配者リスト」という語は出てきません。

したがって、リストの写しを用意すれば申込の手間が減るとは、現時点では言えません。申込先の銀行がリストの写しをどう扱うかは、申込前に銀行へ直接確認するのが確実です。

制度の性質については、法務省のQ&Aが2点を明らかにしています。1つ目は、制度が任意だということです。Q&A 5-2 は「本制度は、任意の申出に基づいて実質的支配者リストの写しを発行するものですので、実質的支配者リストに記載されている情報に変更があった場合であっても、変更後の実質的支配者リストの保管及び写しの交付の申出をするかどうかも任意となります。」としています。同じ回答は続けて「新たな情報が記載された実質的支配者リストの写しを必要とする場合には、改めて申出をすることとなります。」とも書いています。

2つ目は、誰が実質的支配者かを法務局が判定してくれるわけではないことです。Q&A 5-1 は、法務局が教えてくれるかという問いに「実質的支配者が誰であるかが分からないときは、本制度を御利用いただけません。」と答えています(法務省「実質的支配者リスト制度Q&A」/当サイト確認日 2026年10月3日)。リストは、会社が自ら判断した内容を、添付書面と照らして登記官が確認する仕組みです。

当サイトで確認できていないこと

本記事の範囲を明示します。確認が取れていない事項は、推測で埋めずにそのまま残します。

  • 各銀行が実質的支配者リストの写しを口座開設の申込で受け付けるかどうかは、確認できていません
  • 犯収法とその施行規則の条文そのものは、当サイトでは開いていません。本記事の定義は法務省・銀行のページの記載に基づきます
  • Trunk の3類型と全員分の本人確認が、株式会社の申込でも同じ扱いになるかは確認できていません(必要書類ページでは合同会社・NPO法人の項目の記載です)
  • Trunk 以外の銀行が、実質的支配者をどの類型で確認しているかは、本記事では扱っていません。ドコモSMTBネット銀行のFAQは、業態によって実質的支配者が異なると書き、判定チャートへ案内しています(判定チャートの内容は当サイトでは未確認です)
  • 読者の会社で誰が実質的支配者に当たるかは、個別の資本関係と事情によります。当サイトは判定しません

申込前に確認する手順

法人口座の申込で実質的支配者の欄を埋める前に、次の順で確認します。いずれも公式ページと自社の資料で確かめる手順です。

  1. 自社の法人の形態を確かめ、申込先の銀行の実質的支配者の説明を読む。Trunk は形態によって確認方法が異なると明記しています
  2. 自社の株主名簿で、議決権の保有割合を確かめる。親会社がある場合は、法務省Q&A 1-2 の間接保有の要件に当たるか(親会社の議決権の50%超を持つ個人がいるか)を確かめます
  3. 該当する人の本人確認書類を準備してもらう。Trunk は合同会社・NPO法人の場合に、実質的支配者全員分の本人確認を申込フォームの中で求めています
  4. 株式会社以外では実質的支配者リスト制度を使えないため、銀行が求める書類で示す。Trunk の場合、合同会社・NPO法人は類型1・2に該当すれば定款を提出します
  5. リストの写しを使いたい場合は、申込先の銀行が受け付けるかを事前に問い合わせる

法人口座の申込に必要な書類全体は法人口座開設に必要な書類で、設立直後の会社の口座選びは創業期の法人口座の選び方で整理しています。

よくある質問

Q.実質的支配者とは誰のことですか?

A.法人を実質的に支配する個人です。法務省は「法人の議決権の総数の4分の1を超える議決権を直接又は間接に有していると認められる自然人等」と定義しています(当サイト確認日 2026年10月3日)。銀行の確認方法は法人の形態で異なり、Trunk は合同会社・NPO法人について、支配的な影響力を持つ人や代表して業務を執行する人を含む3類型を示しています。

Q.実質的支配者リスト制度は無料ですか?

A.無料です。法務省は「本制度は無料で利用することができ、郵送による申出も可能です。」と記載しています([法務省](https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00116.html)/当サイト確認日 2026年10月3日)。提出先は会社の本店所在地を管轄する法務局です。

Q.合同会社でも実質的支配者リスト制度を使えますか?

A.使えません。制度を利用できるのは株式会社(特例有限会社を含む)で、法務省は持分会社や一般社団法人等を対象外としています。合同会社の口座申込では、Trunk の場合、類型1・2に該当すると定款の提出が求められます(当サイト確認日 2026年10月3日)。

Q.実質的支配者リストを出せば口座開設は早くなりますか?

A.そうとは言えません。当サイトが確認した銀行のページには、リストの写しを申込で受け付ける旨の記載は見当たりませんでした。リストを使いたい場合は、申込先の銀行に事前に確認してください。審査の結果は各銀行の判断です。

Q.誰が実質的支配者になるか、法務局で教えてもらえますか?

A.法務省のQ&Aは、この問いに「実質的支配者が誰であるかが分からないときは、本制度を御利用いただけません。」と答えています(当サイト確認日 2026年10月3日)。制度の利用前に、自社で実質的支配者を特定しておく必要があります。資本関係が複雑な場合は、司法書士などの専門家に相談してください。

まとめ

法人口座の申込で出てくる実質的支配者は、法人の形態によって確認方法が変わり、法務省の制度で示せる範囲も限られます。押さえる点は次の4つです。

  1. 実質的支配者は原則として個人。個人とみなされる範囲は出典ごとに異なり、法務省・Trunk・ドコモSMTBネット銀行はいずれも国、地方公共団体、上場企業とその子会社を挙げています
  2. 銀行の確認方法は法人の形態で変わる。Trunk は合同会社・NPO法人について、議決権25%超、支配的な影響力、代表して業務を執行する個人の3類型を示し、全員分の本人確認を求めています
  3. 実質的支配者リスト制度は、株式会社が無料で使える法務局の制度(法務省)。対象は議決権の段階判定(50%超、いなければ25%超)で決まる人だけで、合同会社は使えません
  4. リストの写しを口座開設で受け付けるかは銀行ごとに確認する。当サイトが確認した銀行のページには、受け付ける旨の記載はありませんでした

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