ファクタリングを調べはじめると、最初の分岐として「2社間」と「3社間」という言葉に出会います。見積もりを取ると両者で条件が大きく違い、どちらを選ぶべきか迷う。しかしこの2つは、優劣で並ぶ商品プランではありません。売掛先(取引先)がその取引に入るかどうかという、当事者の構成そのものが違う契約です。
この1点の違いが、売掛先への通知の要否、債権譲渡登記という手続の要否、手数料の構造、入金までの流れのすべてに波及します。本記事では、仕組みの違いを法的な裏付け(法務省の債権譲渡登記制度の説明・国税庁の印紙税の定め)まで降りて整理し、どちらを検討するかの判断順序までを扱います。
ファクタリングそのものの仕組み(法的には債権の売買であること)はファクタリングとはで解説しています。金融庁はファクタリングを装った違法な貸付について注意喚起を出しており、本記事の内容もこの注意喚起を軸に組み立てています。
2社間と3社間は「誰が取引に入るか」で分かれる
2社間ファクタリングは、利用者(売掛債権を持つ事業者)とファクタリング会社の2者だけで完結する契約です。売掛先はこの取引に関与せず、原則として取引の存在を知りません。売掛金は期日にいったん利用者へ支払われ、利用者がファクタリング会社へ引き渡します。
3社間ファクタリングは、売掛先を含めた3者で進める契約です。売掛先に債権譲渡を通知し、または売掛先の承諾を得たうえで、期日には売掛先がファクタリング会社へ直接支払います。
| 観点 | 2社間 | 3社間 |
|---|---|---|
| 契約の当事者 | 利用者とファクタリング会社 | 左の2者に加えて売掛先が関与 |
| 売掛先への通知・承諾 | 行わないのが原則 | 通知または承諾を行う |
| 期日の資金の流れ | 売掛先 → 利用者 → ファクタリング会社 | 売掛先 → ファクタリング会社(直接) |
| 売掛先に知られるか | 原則として知られない | 知られる(関与が前提) |
| 対抗要件の備え方 | 債権譲渡登記が使われることが多い | 確定日付のある証書による通知・承諾が対抗要件になる |
どちらの形でも、契約の実体が**債権の売買(債権譲渡)**であることは変わりません。金融庁も「一般に『ファクタリング』とは、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス(事業者の資金調達の一手段)であり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約です」と説明しています。
通知・承諾は法律上どんな意味を持つか
3社間で行う「売掛先への通知・承諾」は、単なる仁義や連絡ではありません。債権を譲り渡したことを、売掛先やその他の第三者に主張するための法律上の手続(対抗要件)です。
この点は、法務省の債権譲渡登記制度の概要が簡潔に整理しています。同ページによれば、債権譲渡登記制度は「法人がする金銭債権の譲渡について、債務者以外の第三者に対する対抗要件を備えるための制度」であり、登記をすると「民法第467条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなされ、第三者対抗要件が具備され」ます。
言い換えると、民法の原則の世界では、債権譲渡を売掛先以外の第三者にまで主張するには確定日付のある証書による通知・承諾という、債務者(売掛先)を巻き込んだ手続が必要です。3社間ファクタリングは、この原則どおりの道を歩く形です。売掛先が譲渡を認識して直接支払うため、ファクタリング会社から見ると回収の確実性が高くなります。
2社間で債権譲渡登記が使われる理由と費用
では、売掛先に知らせない2社間では、ファクタリング会社はどうやって自分の立場を守るのか。ここで使われるのが、先ほどの債権譲渡登記です。売掛先に通知しなくても、登記によって「債務者以外の第三者」に対する対抗要件を備えられます。売掛先本人に主張するには、法務省の同じページにあるとおり「登記をしたことを証する登記事項証明書の交付を伴う通知」が別途必要ですが、通常の2社間取引ではそこまで進めず、登記だけを備えておく形が取られます。
この手続には、実費が法令で定まっています。
- 債権譲渡登記の登録免許税は、債権の個数が5,000個以下の場合で1件につき7,500円(租税特別措置法により軽減された額)、5,000個を超える場合は1件につき15,000円です(法務省: 添付書面・登録免許税)
- 債権譲渡契約書そのものには印紙税がかかります。第15号文書(債権譲渡に関する契約書)として、記載された契約金額が1万円以上なら200円、契約金額の記載のないものも200円、1万円未満は非課税です(国税庁 タックスアンサー No.7141)
このほか、登記を司法書士に依頼する場合の報酬や、事業者側の事務手数料が乗ることがありますが、これらは法定の額ではないため、個別の見積もりで確認するほかありません。
ここで押さえておきたいのは、法定の実費はいずれも定額であり、公表された出典で確認できるという点です。見積もりにこれらの名目で法定額と大きく異なる金額が計上されていたら、内訳の説明を求める理由になります。
手数料の構造が違うのは、リスクと費用の置き場所が違うから
2社間と3社間で手数料の水準が違うと語られるのは、上で見た構造の違いの帰結です。率の数字そのものではなく、何がコストとリスクを生むかで整理します。
- 回収の確実性: 3社間は売掛先が直接支払うため、ファクタリング会社が回収できない危険が小さくなります。2社間は資金がいったん利用者を経由するため、その分の危険を織り込む必要があります
- 手続の実費: 2社間は債権譲渡登記の登録免許税など、上で挙げた実費が発生しやすい構造です
- 審査の材料: 3社間は売掛先の関与そのものが債権の実在の裏付けになります。2社間は書類による確認に頼る度合いが上がります
なお、当サイトは手数料の「相場」の数値を書きません。調査の結果、金融庁・中小企業庁・国民生活センター・消費者庁のいずれにも事業者向けファクタリング手数料の相場データが存在しないことを確認しており、裏付けのない数値はヘッジ表現を付けても掲載しない方針です。率と総額の見方そのものはファクタリング手数料の見方で詳しく整理しています。
どちらを検討するか:判断の順序
形態の選択は、次の順序で考えると整理しやすくなります。
- 売掛先に知られてよいかをまず決めます。3社間は売掛先の関与が前提であり、ここが受け入れられないなら選択肢は2社間に絞られます。逆に、売掛先との関係で通知が問題にならないなら、3社間を検討する余地が広がります
- 費用の総額を見積もりで比べます。率だけでなく、登記の実費・事務手数料まで含めた「額面と受取額の差」で比較します
- 契約の中身を確認します。買戻しの定めや担保・保証の条項が混じっていないか。この読み方は償還請求権とはで扱っています
事業者ごとの比較の観点はファクタリング比較にまとめています。
偽装ファクタリングへの注意は両形態に共通
最後に、形態の選択より先に立つ確認事項があります。金融庁は、ファクタリングを装った違法な貸付(偽装ファクタリング)について、「ファクタリング業者から受け取る金銭(債権の買取代金)が、債権額に比べて著しく低額である」ことや、売掛先から回収できなかった場合に利用者が買い戻す・自身の資金で支払うこととされていることを、疑いのある例として挙げています。
また同ページは、貸金業に該当するかは「形式的な要素だけでなく、経済的側面や実態に照らして判断される」としています。2社間か3社間かという形態の違いは、この判断とは別の軸です。どちらの形態であっても、契約の実態が売買から離れていないかの確認は省けません。
Q.2社間ファクタリングは売掛先に絶対に知られませんか?
A.原則として通知は行われませんが、絶対ではありません。債権譲渡登記は登記による公示の制度であり、第三者が登記の存在を確認し得る仕組みです。また支払いが滞った場合などには、登記事項証明書の交付を伴う通知が売掛先へ行われる可能性があります。契約前に、どのような場合に通知が行われるかを確認しておくのが確実です。
Q.3社間のほうが手数料は必ず安くなりますか?
A.「必ず」とは言えません。回収の確実性が高い分、3社間のほうが低くなりやすい構造ではありますが、実際の条件は債権の内容・売掛先の信用・事業者ごとの基準で決まります。複数の見積もりを、率ではなく受取額の総額で比べることをおすすめします。
Q.個人事業主でも債権譲渡登記は使えますか?
A.使えません。法務省の説明のとおり、債権譲渡登記制度は法人がする金銭債権の譲渡を対象とした制度です。個人事業主の2社間取引では、登記に代わる方法(債権の実在確認や契約条件)がどう設計されているかを事業者に確認する必要があります。
Q.売掛先への通知は自分で行うのですか?
A.契約によります。3社間では通知・承諾の段取りを三者で調整するのが通常です。誰が・いつ・どの書式で通知するかは契約書と実務フローで確認してください。通知の位置づけ(対抗要件)は本文で整理したとおりです。
まとめ:通知の一点から全体を読む
2社間と3社間の違いは、売掛先が取引に入るかどうかの1点に還元できます。その1点が、対抗要件の備え方(通知・承諾か、債権譲渡登記か)、法定の実費、手数料の構造、回収の流れへと順に波及します。
- 売掛先に知られてよいかどうかを最初に決める
- 費用は率ではなく、実費を含む総額(額面と受取額の差)で比べる
- どちらの形態でも、買戻し条項と買取額の水準は金融庁の注意喚起に照らして確認する
数値は法定の実費(登録免許税・印紙税)のみ、出典とともに本文へ記載しました。手数料そのものの見方は次の記事で扱います。